皮膚は体の鏡
全身の病気が皮膚に現れることがあります。
皮膚のトラブル=皮膚だけの病気と思われがちですが、実はそうとは限りません。
皮膚は体の中で一番大きな臓器であり、全身の状態を映し出す鏡のような存在です。
犬ではおよそ3週間ごとに皮膚の細胞が入れ替わっており、とても動きのある組織です。
そのため、ホルモンの病気、内臓の病気(肝臓・膵臓・腎臓・腫瘍など)、免疫の異常、遺伝的な病気
といった体の中の異常が、最初に皮膚の変化として現れることがよくあります。
よくある「全身病」と皮膚のサイン
ここでは、代表的なものをいくつかご紹介します。
※あくまで一例であり、自己判断は危険です。気になる症状があれば、早めの受診をおすすめします。
① ホルモンの病気(内分泌疾患)
● 甲状腺機能低下症
頸部にある甲状腺の働きが文字通り低下する病気です。甲状腺からのホルモン分泌が低下することで様々は症状が現れます。
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毛が全体的に薄くなる、抜けた毛がなかなか生えてこない
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被毛がパサパサ・色つやが悪い
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尻尾がネズミのしっぽのようにハゲてくる(ラットテール)
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皮膚が分厚く、もっちりした感じになることがある
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元気がない・太りやすい・寒がり
といったサインが見られます。
● クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
コルチゾールというホルモンが副腎から出すぎる病気です。
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全身の毛が薄くなる
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皮膚がとても薄くなり、傷つきやすい・青あざのように見える
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お腹がパンパンにふくらむ
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多飲多尿
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皮膚に白いかさぶたのような石灰沈着ができる
● エストロゲン(性ホルモン)の異常
卵巣や精巣の腫瘍などで性ホルモンが過剰になる状態です。
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左右対称の脱毛
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乳首や外陰部(女の子)、包皮(男の子)が大きくなる
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オス犬なのにほかのオス犬に好かれやすくなる
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お腹や股のあたりの皮膚が黒ずむ
② 免疫の異常や遺伝性の病気
● エリテマトーデス(全身性:SLE/円板状:DLE)
自分の身体を自分で攻撃してしまう自己免疫性疾患です。
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鼻の頭や顔に赤み・かさぶた・色が抜けるような変化
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背中などに左右対称の脱毛・フケ・ただれ
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関節炎、貧血、発熱など全身症状を伴うことも
● 皮膚筋炎(主にコリー・シェルティ)
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顔(特に目の周り、鼻筋)、四肢、尻尾の脱毛・赤み・かさぶた
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進行すると、飲み込みづらい・歩き方がおかしい・ガリガリに痩せる
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遺伝的な要因が関係していると考えられています
③ 内臓の腫瘍や肝臓・膵臓の病気と皮膚
● 猫の腫瘍に伴う脱毛(パラネオプラスティック脱毛)
主に膵臓や肝臓に腫瘍がある猫では脱毛や皮膚の異常が生じることがあります。
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目の周りから始まる急激な脱毛
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首からお腹、足にかけて、つるっとしたテカテカの皮膚
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毛が簡単に抜け落ちる
● 表在性壊死性皮膚炎(SND/肝臓病・膵臓腫瘍など)
主に犬で、肝障害における栄養素の欠乏が原因で生じると考えられています。
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口の周り、お尻、足先、肉球などにひどいかさぶた・びらん・潰瘍
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肝臓の病気や一部の膵臓腫瘍が原因
④ 栄養・ミネラルの異常や感染症
● 亜鉛不足/亜鉛反応性皮膚炎
特にハスキー・マラミュートなどで多く見られます。亜鉛の吸収の問題や、食事との関係が疑われます。
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顔や口周り、肉球の脱毛・赤み・厚いかさぶた
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食欲が落ちる、体重が減る、傷が治りにくい
● ジステンパー(犬)
ジステンパーウイルスに感染すると全身性に様々な異常が出ます。ワクチンで予防が非常に重要です。
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肉球や鼻の皮が分厚く固くなる(いわゆる「ハードパッド」)
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発熱、咳、鼻水、神経症状などを伴う
⑤ 皮膚が「薄すぎる」or「分厚すぎる」
● 皮膚がとても薄くてすぐ破れる(特に猫)
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少し引っかいただけで大きく裂ける
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高齢猫、ホルモンの病気(クッシング症候群)や肝臓病、FIPと関連することも
● 皮膚が異常に厚い/たるんでいる
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シャーペイで見られる先天的なムチン沈着
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先ほどの甲状腺機能低下症や、成長ホルモンの異常(巨人症・アクロメガリー)でも皮膚の厚みが変わることがあります
飼い主様に知っておいてほしい危険サイン
次のような状態が見られたら、単なる皮膚炎ではなく全身の病気が隠れている可能性があります。
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左右対称に広がる脱毛
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急に全身の毛が薄くなる/つやがなくなる
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皮膚が妙に薄い、または分厚くゴワゴワしている
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肉球や鼻の皮が異常に硬い、ひび割れる
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皮膚の変化に加えて
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元気がない
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体重が急に増えた/減った
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水を異常に飲む・尿が多い
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咳や呼吸の異常、下痢・嘔吐、発熱
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歩き方がおかしい、ふらつく
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こうした場合、皮膚だけの薬では良くならないことが多く、血液検査やホルモン検査、エコー検査、皮膚の一部をとって調べる皮膚生検などが必要になります。
動物病院ではこんな検査をします
皮膚と全身状態を一緒に評価するために、例えば以下のような検査を組み合わせます。
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皮膚の一部をこすってダニなどを調べる(皮膚掻爬)
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毛を抜いて顕微鏡で見る(トリコグラム)
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真菌培養(カビの検査)
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皮膚の一部を局所麻酔で採取し、病理検査(皮膚生検)
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血液検査(ホルモン、肝臓・腎臓・糖尿病などのチェック)
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超音波検査(腹部エコー)、レントゲン、CTやMRIが必要になることも
病理組織検査は全身病の診断にもとても役立ちます。
皮膚トラブルは内臓からのSOSのことも
皮膚は体で一番大きな臓器であり、全身の状態を映す鏡です。毛が抜ける、フケ・かさぶた、色の変化、皮膚の厚みの変化などは、
ホルモン、肝臓・膵臓、免疫、腫瘍、遺伝性疾患など、体の中の病気のサインであることがあります。
「歳だから」「アレルギーかな?」と自己判断せず、
気になる皮膚の変化や、皮膚トラブル+全身症状(元気がない・痩せた・水をたくさん飲むなど)があれば、
早めに動物病院で相談してください。


