その行動、本当にしつけだけの問題?病気が隠れているサインかもしれません
「急に攻撃的になった」
「床やソファをずっとなめ続ける」
「見えない何かに向かってパクパク噛みつく」
こんな行動をわんちゃん・ねこちゃんが見せたとき、
「性格の問題かな?」「しつけが足りないのかな?」
と思ってしまう飼い主様は少なくありません。
しかし実は、その行動の裏側に病気や痛み、不安障害が隠れていることも多くあります。
院長の岡松です。今回は、獣医行動学の知見をもとに、
「どんな行動が病気のサインになり得るのか」
「どんなときに動物病院で相談した方が良いのか」
をご紹介します。
行動の変化は性格だけでは説明できないことがある
動物が病気になったり、どこかが痛かったりすると、次のような行動の変化が見られることがあります。
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その場にふさわしくない行動(急な攻撃、急に隠れる など)
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行動の流れが不自然になる(なめる・噛むのをやめられない など)
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普段より頻度・時間が増える(なめ続ける、歩き回り続ける など)
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新しい行動が出てくる(急に隠れるようになる など)
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逆に、当たり前の行動がなくなる(遊ばなくなる、甘えなくなる など)
これらは精神的な問題(行動学的な病気)でも起こりますし、身体の病気でも起こります。
両方が同時に起きていることも珍しくありません。
不安・ストレスに見えるけれど… 痛みや病気と重なりやすいサイン
↓のような状態は不安や緊張と言われることが多いですが、痛みや内臓の病気でもよく見られます。
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落ち着きなくウロウロする
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ずっとパンティングしている(ハアハア息が荒い)
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何度も鳴く・吠える
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口の周りをペロペロなめる
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何度も飲み込むような動作をする
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震える、体を縮める、尾を下げる
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隠れて出てこない
怖がりな性格だからと決めつけてしまう前に、痛み(関節・お腹・皮膚など)や内臓の病気が隠れていないか一度獣医師に相談することをおすすめします。
特に注意したい口を使った反復行動
近年の研究で、次のような口を使った反復行動は、単なる癖ではなく、消化器の病気などが原因になっているケースが多いことが分かってきました。
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食べ物ではないものを食べる(石・布・木・おもちゃなど)=異食
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床・壁・ソファ・ベッドなどをひたすらなめ続ける
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何もない空中をパクパク噛もうとする(ハエを噛むような仕草)
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虚空をペロペロなめる
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脇腹を吸う、同じ場所をずっと噛む・なめる
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自分の体を傷つけるほど噛む(自傷行為)
実際に、床や物をなめ続けていた犬を詳しく調べた研究では、約7割以上で胃腸の病気(炎症性腸疾患、胃の動きの低下、慢性膵炎、寄生虫、胃内異物など)が見つかったと報告されています。
癖やストレスで片付けてしまうと、本当に治療すべき病気を見逃してしまう危険があります。
こんなときは、すぐに動物病院へ
次のようなサインがある場合は、早めの受診をおすすめします。
① 行動が「急に」変わったとき
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急に攻撃的になった
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急に隠れるようになった
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急に触られるのを嫌がるようになった
→ 急性の痛み(ケガ、椎間板ヘルニア、腹痛など)や脳の病気が隠れていることがあります。
② 口を使った反復行動が目立つとき
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床やソファを毎日のように長時間なめ続ける
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見えない何かに向かって噛みつく動作を繰り返す
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食べ物でない物をよく飲み込んでしまう
→ 胃腸炎、炎症性腸疾患、胃排出遅延、胃内異物などの可能性があります。
内視鏡などで胃腸の生検を行うと原因が分かることも多いと報告されています。
③ 不安そうな行動+体のサインがあるとき
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パンティング、落ち着きのなさ、震え
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口をペロペロなめる、何度も飲み込む
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げっぷ、おなら、腹がゴロゴロ鳴る、よだれ
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首を伸ばすような姿勢、背中を丸める姿勢
→ 「怖がりだから」「性格だから」と思いやすい状態ですが、お腹の不快感や胸の痛み、その他の内臓疾患が隠れていることがあります。
若い頃から「他の子と様子が違う」子も要チェック
子犬・子猫の頃から、病院で極端に怖がる・暴れる、ずっと鳴き続ける、飼い主や獣医に過剰にしがみつく、逆にまったく関わろうとしない
といった場合には、単なる性格だけでなく不安障害の始まりである可能性もあります。
早い段階から、環境づくり(隠れ場所・安心できる場所)、無理のない社会化、病院への慣らし方必要に応じた行動カウンセリングや投薬などを行うことで、将来のトラブルを減らせることがあります。
行動と病気は「別物」ではなく、重なっていることが多い
大切なポイントは、行動の問題と身体の病気は、きれいに分けられるものではなく、同時に起きていることがとても多いということです。
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痛みや胃腸の不快感 → 不安・イライラ・攻撃性を悪化させる
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もともと不安が強い子 → ストレスで胃腸症状が出やすくなる
このような悪循環が起きているケースも少なくありません。
飼い主様にできること
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小さな変化もメモしておく
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いつから?
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どんな場面で?(ご飯の前後・留守番中・夜だけ など)
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どれくらいの頻度・時間?
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動画を撮っておく
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動物病院ではなかなか再現しない行動でも、動画があると診断の手がかりになります。
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「しつけの問題だ」と決めつけない
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叱ったり罰を与えたりすると、痛みや不安がさらに悪化することがあります。
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気になる行動は早めに相談する
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「こんなことで相談していいのかな?」ということほど、早めに聞いていただけると助かります。
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まとめ
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行動の変化は、「性格」「しつけの問題」だけでなく、病気や痛みのサインであることが多くあります。
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特に、床や物をなめ続ける・見えないハエを噛むような行動・食べ物でない物を食べてしまう、といった行動は、胃腸の病気などが隠れている可能性が高いと分かってきました。
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不安そうな行動と身体のサイン(パンティング・震え・よだれ・お腹のゴロゴロなど)が一緒に見られるときは、早めに動物病院でご相談ください。
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行動と病気は切り離して考えるのではなく、両方を一緒に診ることで、わんちゃん・ねこちゃんをより楽にしてあげられます。


