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ペットの「なんとなく元気がない」をどう考える?

寒かったり暖かったり不安定な日が続いています。院長の岡松です。

愛犬、愛猫が「いつもの感じじゃない」と感じられる時、ありますよね。

「ごはんは食べてるけど、なんかいつもと違う」
「説明しづらいけど、元気がない気がする」

動物病院では、こうしたはっきりした症状ではない相談がとても多くあります。
英語圏では、こうした状態をAin’t Doing Right(なんかおかしい)、ADR と略して呼ぶこともあります。

医学的には「Ill thrift(なんとなく活力が落ちている状態)」と表現されます。

  • いつものように遊ばない

  • なんとなくボーッとしている

  • 寝てばかりいる気がする

  • 表情がいつもより暗い気がする

こうした飼い主様の違和感は、とても大切なサインです。

「なんとなく元気がない」という状態は、とてもあいまいです。
咳・下痢・嘔吐・跛行(足をひきずる)などのように、わかりやすい症状が出ていないことも多くあります。

ちょっとした疲れ、軽い胃腸炎のように、自然に治るものから心臓病、腫瘍、重い感染症など、命に関わる病気の初期サインまで本当に幅広い原因が隠れている可能性があります。

また、以前、同じような症状で別の子を亡くしている、最近ニュースで怖い病気を見たといった飼い主様側の不安や経験が重なり、実際は正常に近い状態なのにとても悪く見えてしまうこともあります。

どちらの場合も、獣医師側は大げさだと決めつけず、きちんと話を聞き、診察し、必要な検査を考えることが大切です。

重症かどうかを見極めることが重要です。

なんとなく元気がない子を前にしたとき、私たち獣医師が最初に考えるのは

「今すぐ命に関わりそうかどうか」

という点です。

以下のような様子がある場合は、早めの受診が必要です。

  • ぐったりして立てない、反応が鈍い

  • 歩くとふらつく、倒れる

  • 呼吸が速い・苦しそう(お腹や胸を大きく使って呼吸している)

  • 目や歯ぐきの色が白っぽい・紫っぽい

  • 心臓の鼓動がおかしい気がする、脈が飛ぶ

  • 明らかに痛そうで、触ると怒る・鳴く・体を庇う

  • 大量の出血や大きなケガがある

こうした場合は、なんとなく元気がないではなく、すでに重症の可能性が高い状態です。
夜間や休日でも、可能な範囲で救急対応している病院へ連絡してください。

同じ「元気がない」でも、「子犬・子猫」、「成犬・成猫」、「シニア期」では、疑う病気が変わってきます。

例えば

若齢の犬猫では、先天性の心臓病・肝臓病、寄生虫(回虫、条虫など)、異物の誤飲(おもちゃ、ヒモ、靴下など)

高齢の成犬・成猫では、心臓病、腎臓病、肝臓病、腫瘍、慢性的な関節炎や椎間板ヘルニア

大型犬では、骨肉腫、脾臓・心臓の腫瘍、大型犬特有の腫瘍性疾患

小型犬では、僧帽弁閉鎖不全症(心臓弁膜症)、慢性膵炎

ダックス・コーギーなどの胴長短足の犬種では、椎間板ヘルニア(「痛いけどじっと我慢している」ため、最初は「元気がない」だけに見えることも)

など、年齢・犬種・性別でも、隠れている病気の傾向が変わります。
年齢や犬種、性別の情報を合わせることで、獣医師は「この子に起こりやすい病気」をより早く想像することができます。

なんとなく元気がなく動物病院を受診したとき、問診でよく聞かれるポイントと、その意味を簡単にご紹介します。

① いつから?どう変化してきた?

  • 「最後に完全に元気だった日はいつか」

  • 「それから今日まで、良くなったり悪くなったりしていないか」

これは、

  • 慢性的な病気が隠れていないか

  • 良くなったり悪くなったりを繰り返す病気ではないか

  • 本当に異常なのか、それとも「正常の範囲内」か

を見極めるために重要です。

② 生活環境・習慣・危険物への接触

  • 室内飼いか、外にも出るか

  • 小さな物やヒモを飲み込みやすいタイプかどうか

  • 家の中に、人の薬・針・糸・観葉植物・殺虫剤などがないか

  • 手作り食や特殊なサプリを使っていないか

などを確認することで、中毒・異物・感染症などのリスクを絞り込むことができます。

③ 食欲・排便・排尿

  • ごはんは食べるか、食べにくそうにしていないか

  • 下痢・便秘・血便はないか

  • おしっこの回数・色・量は変わっていないか

  • 水を飲む量が増えていないか

こうした情報は、 腎臓病・糖尿病・膀胱炎・消化器疾患などの発見につながります。

「なんとなく元気がない」子の検査は、状態の重さによって変わります。

■ 比較的落ち着いている場合

まず考えられる検査は、

  • 身体検査(体温・心音・呼吸・触診など)

  • 血液検査(貧血、炎症、臓器の状態)

  • 尿検査(腎臓、糖尿病、尿路の問題)

などです。

できれば、事前に尿を採って持ってきていただくと、とても助かります。
糖尿病や腎臓病、尿の色の異常などが早い段階で分かることがあります。

必要に応じて、

  • レントゲン検査(心臓・肺・お腹の臓器・骨など)

  • 超音波検査(お腹の中や心臓の動き)

  • フィラリア検査・猫エイズ/白血病ウイルス検査

  • 猫の甲状腺ホルモン検査(T4)

などを追加していきます。

■ 重症が疑われる場合

ぐったりしている、呼吸が苦しい、意識がぼんやりしているなど、命に関わる可能性があると判断した場合は、

  • 上記の検査に加え、

  • 血液ガス、より詳しい血液検査、超音波、CT/MRIへの紹介など

より踏み込んだ検査を行うことがあります。
検査で異常がはっきり出ることが多く、その結果が治療方針を大きく左右します。

「検査はせず、まずは様子を見る」という選択もあります

病院で診察を受けた結果、身体検査で大きな異常がないペットも比較的落ち着いている場合、飼い主様の希望によっては、今は検査をせずに様子を見るという選択肢もあります。

その際、獣医師からはご自宅で見てほしいポイント(元気・食欲・呼吸・歩き方・排便・排尿・水を飲む量 など)、どのような変化があったらすぐに連絡・再診してほしいかをお伝えします。

また、「自然に良くなるときの経過」「悪化していくときの経過」を可能な限りわかりやすく説明した上で、飼い主様と一緒に方針を決めていくことが大切だと考えています。

実は病気ではない場合もあります

少し意外かもしれませんが、飼い主様自身がとても不安定な状況にいるとき(家族の病気・ペットロス・仕事のストレスなど)、ペットが高齢になり、自然な範囲の落ち着きや活動量の低下が出てきたときなどに、本当は病気ではないのに、病気のように見えてしまうこともあります。

きちんと身体検査や必要な検査を行い、明らかな病気が見つからないことを確認し、それでも心配なら、症状が出ているときの動画を撮ってもらうなどしながら、ゆっくりと一緒に様子を見ていくことが大切です。

何かいつもと違うと感じられる時は遠慮なく相談してください

獣医師から見ると「大きな病気ではなかったね、よかったね」で終わるケースもたくさんあります。
それでも、はじめに感じた何かおかしい、いつものこの子じゃないという感覚はとても大事な「気づき」です。

こんなときは、受診をおすすめします。

1〜2日見ていても、なんとなく心配が消えない、明らかにぐったりしている、呼吸が苦しそう、立てない、食欲や排泄の様子がはっきりおかしい、「以前、似たような症状の子を亡くしたことがある」など、強い不安がある

こんなことで受診していいのかな?と迷うくらいのタイミングで、 一度ご相談いただくことで、重い病気を早く見つけられることもありますし、「特に大きな問題はなさそうですよ」とお伝えして、安心していただけることもあります。

ペットの一番の理解者は、いつも一緒にいる飼い主さんです。
その「なんとなく」の違和感を、どうぞ遠慮なく教えてください。
私たちは、それをきっかけにできる限りのサポートをしていきたいと考えています。

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