脳神経科疾患 ①椎間板ヘルニア
こんにちは。おかまつ動物病院です。
当院では、ワクチン接種や健康診断などの予防医療から、日常的な体調不良に対する一般診療まで幅広く対応しております。
その中でも特に、整形外科や脳神経科の診療に力を入れており、歩き方の異常、足を痛がる、ふらつき、麻痺などの症状についてもご相談いただけます。
また、骨折、膝蓋骨脱臼、前十字靭帯断裂、椎間板ヘルニアなどに対する外科手術にも対応しております。
今回は、犬で比較的多くみられる神経疾患のひとつである椎間板ヘルニアについてご紹介します。
椎間板ヘルニアとは
椎間板は、背骨と背骨の間にあるクッションのような組織です。
椎間板の中心には「髄核」と呼ばれるゼリー状の組織があり、その周囲を「線維輪」という組織が取り囲んでいます。
椎間板ヘルニアでは、この椎間板が変性し、髄核や線維輪が脊髄を圧迫することで、痛みやふらつき、麻痺などの症状が起こります。
特に、胸腰部の椎間板ヘルニアでは後ろ足のふらつきや麻痺がみられ、頚部の椎間板ヘルニアでは首の強い痛みや、前足・後ろ足の麻痺がみられることがあります。
原因
椎間板ヘルニアは、ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、コッカー・スパニエル、トイ・プードル、ビーグル、コーギー、ペキニーズなどの犬種で多くみられます。
これらの犬種では、若い年齢から椎間板の髄核が変性しやすく、椎間板ヘルニアを発症しやすい傾向があります。
椎間板ヘルニアは3〜7歳頃に多く発症しますが、ミニチュア・ダックスフンドでは高齢になってから発症することもあります。
椎間板ヘルニアには、大きく分けてハンセンⅠ型とⅡ型があります。
ハンセンⅠ型は、変性した髄核が線維輪を破って飛び出し、脊髄を圧迫する病気です。
数十分から数時間という短い時間で突然発症することがあり、急に後ろ足がふらつく、立てなくなる、歩けなくなるといった症状がみられます。
一方、ハンセンⅡ型は、髄核が飛び出すのではなく、線維輪が厚くなって脊髄を圧迫するタイプです。
比較的ゆっくり進行することが多く、数週間から数か月かけて、足がすべる、ふらつく、うまく歩けないなどの症状が徐々に悪化することがあります。
椎間板ヘルニアは「ベッドやソファから落ちた」「階段で足を滑らせた」「フローリングで転んだ」など、日常的な動作をきっかけに発症することもあります。
実際には特別なきっかけがなく発症することも少なくありません。
症状
椎間板ヘルニアの症状は、発生した部位や脊髄への圧迫の程度によって異なります。
- 元気がない
- 背中を丸める
- 抱き上げると痛がる
- ジャンプしなくなる
- 歩き方がぎこちない
- 足先が滑る
- 後ろ足がふらつく
などの症状がみられることがあります。
進行すると、前足や後ろ足に麻痺が起こり、歩行が困難になったり、まったく歩けなくなったりすることがあります。
頚椎に椎間板ヘルニアが起こった場合は、首の強い痛みや、前足・後ろ足すべてに麻痺が出ることがあります。
胸腰部に発生した場合は、後ろ足のふらつきや麻痺がみられます。
重度になると、自力で排尿できなくなることもあります。
その場合には、膀胱を圧迫して排尿を補助したり、カテーテルを用いて排尿管理を行ったりする必要があります。
また、重度の椎間板ヘルニアでは、まれに進行性脊髄軟化症という非常に重篤な合併症が起こることがあります。
これは脊髄の障害が進行していく病気で、命に関わる病態です。
重症度分類
犬猫の胸腰部の椎間板ヘルニアでは、神経症状の重症度をグレード1〜5に分類します。
このグレード分類は、治療方針や緊急性を判断するうえで非常に重要です。
グレード1
麻痺はなく、痛みのみがみられる状態です。
元気がない、背中を丸める、ジャンプしない、抱き上げると痛がるなどの症状がみられます。
グレード2
自力で歩くことはできますが、後ろ足の不全麻痺が認められます。
足先が滑る、足先がひっくり返る「ナックリング」がみられることがあります。
グレード3
後ろ足を動かすことはできますが起立できず、前足だけで歩こうとします。
後ろ足を引きずるような状態で、中等度から重度の麻痺です。
グレード4
後ろ足を動かすことができなくなります。さらに浅部痛覚が低下または消失しますが深部痛覚は認められます。
排尿が難しくなり、尿が漏れてしまうこともあります。緊急性の高い状態です。
グレード5
深部痛覚も消失した状態です。
足先を強く刺激しても痛みを感じない状態(深部痛覚の消失)で、排尿のコントロールも困難になります。
一刻も早い診断と治療が必要です。
診断
椎間板ヘルニアの診断では、まず神経学的検査を行います。
歩き方、姿勢反応、反射、痛みの有無、痛覚の確認などを評価し、どの部位の神経に問題があるかを判断します。
そのうえで、レントゲン検査を行い、骨の異常や他の疾患の可能性を確認します。
ただし、椎間板ヘルニアによる脊髄圧迫そのものは、通常のレントゲン検査だけでは正確に判断できないことがあります。
より詳しい評価が必要な場合には、MRI検査やCT検査、脊髄造影検査などを行います。
特に手術を検討する場合には、どの椎間板が、どの方向から、どの程度脊髄を圧迫しているのかを正確に把握することが重要です。
治療
椎間板ヘルニアの治療には、内科治療と外科治療があります。
治療方針は、麻痺の程度、CTやMRIなどの画像診断結果、症状の進行速度、犬種、年齢、全身状態、合併症の有無などを総合的に判断して決定します。
内科治療
グレード1〜2の比較的軽度の症例では、手術を行わずに内科治療で改善する場合があります。
内科治療では、安静、鎮痛薬の使用、必要に応じた神経症状の管理を行います。
安静期間中に過度に動いてしまうと症状が悪化する可能性があるため、ケージレストなどで活動を制限しながら慎重に経過を観察します。
ただし、内科治療中に麻痺が進行する場合や、痛みが強い場合には、外科治療を検討する必要があります。
外科治療
グレード3以上の重度麻痺では、早急な画像診断を行い、手術を検討します。
特にグレード5のように深部痛覚が消失している場合には、できるだけ早い診断と治療が重要です。
胸腰部の椎間板ヘルニアでは、一般的に片側椎弓切除術という手術が行われます。
これは、脊髄を圧迫している椎間板物質を取り除き、脊髄への圧迫を解除する手術です。
頚椎の椎間板ヘルニアでは、症例に応じてベントラルスロット術という手術が行われることがあります。
また、再発予防を目的として、椎間板内の髄核を取り除く造窓術を併用する場合もあります。
当院では従来の片側椎弓切除術よりも低侵襲な小範囲片側椎弓切除術を行います。


リハビリテーション
椎間板ヘルニアでは、治療後のリハビリテーションも非常に重要です。
麻痺の程度、手術の有無、犬種、体重、性格などに応じて、ストレッチ、マッサージ、関節の可動域訓練、起立訓練、歩行訓練などを段階的に行います。
排尿が難しい症例では、排尿補助も重要な管理のひとつです。
リハビリテーションを適切に行うことで、筋力の低下を防ぎ、歩行機能の回復をサポートすることができます。
ご家庭で気をつけること
椎間板ヘルニアを完全に予防することは難しいですが、日常生活で背骨への負担を減らすことは大切です。
ご家庭では、以下の点に注意しましょう。
- 体重管理
- フローリングには滑りにくいマットやタイルカーペットを敷く
- 階段の上り下りに注意する
- ベッドやソファから飛び降りないように工夫する
- 急なジャンプや激しい運動を控える
特に、ダックスフンドやフレンチ・ブルドッグなど椎間板ヘルニアを起こしやすい犬種では、日頃から歩き方や姿勢をよく観察することが大切です。
「いつもより歩きたがらない」「背中を丸めている」「抱っこすると痛がる」「後ろ足がふらつく」などの症状がみられた場合は、早めの受診をおすすめします。
経過
椎間板ヘルニアの回復は、発症時の神経の損傷程度によって大きく異なります。
手術後に早期から歩行が改善する場合もあれば、数週間から数か月にわたるリハビリテーションが必要になる場合もあります。
また、排尿障害や歩行障害が残ることもあるため、治療後も継続した管理が重要です。
グレード4〜5のような重度の脊髄障害であっても、適切な手術とリハビリテーションを行うことで、歩行機能の回復が期待できる場合があります。
椎間板ヘルニアは、症状が急速に悪化することがあります。
少しでも麻痺やふらつきが疑われる場合には、できるだけ早く動物病院を受診してください。


