整形外科疾患 ②前十字靭帯断裂
こんにちは。おかまつ動物病院です。
当院では、ワクチン接種や健康診断などの予防医療から、日常的な体調不良に対する一般診療まで幅広く対応しております。
その中でも特に、整形外科や脳神経科の診療に力を入れており、歩き方の異常、足を痛がる、ふらつき、麻痺などの症状についてもご相談いただけます。
また、骨折、膝蓋骨脱臼、椎間板ヘルニアなどに対する外科手術にも対応しております。
前回に引き続き、今回も整形外科疾患のひとつをご紹介します。
今回は、犬で比較的多くみられる膝の病気である前十字靭帯断裂についてです。
当院院長は、前十字靭帯断裂の診断および治療に力を入れており、これまで多くの症例に対応してきました。
小型犬では、症状や体格、関節の状態に応じて、保存療法または外側腓腹筋頭種子骨-脛骨結節縫合手術を検討します。
一方で、中型犬から大型犬では、膝関節の安定性を改善するために、TPLO(Tibial Plateau Leveling Osteotomy:脛骨高平部水平化骨切り術)を推奨することがあります。
当院では、それぞれのわんちゃんの体格、年齢、活動性、関節の状態を総合的に評価し、適切な治療方法をご提案しています。
前十字靭帯断裂とは
膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨から構成されています。
さらに、関節包、前十字靭帯、後十字靭帯、半月板、膝蓋靭帯、側副靭帯など、さまざまな組織によって安定性が保たれています。
犬の膝関節疾患は、後ろ足の跛行の原因としてよくみられます。
中でも、前十字靭帯断裂は、膝蓋骨脱臼と並んで犬に多い膝関節疾患のひとつです。
前十字靭帯が断裂すると、膝関節の安定性が損なわれます。
その結果、足を痛がる、後ろ足を挙げる、歩き方がぎこちなくなるといった症状がみられ、時間の経過とともに関節炎が進行することがあります。
原因
犬の前十字靭帯断裂は、小型犬よりも中型犬から大型犬で多くみられる傾向があります。
特に、ラブラドール・レトリーバー、シベリアン・ハスキー、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、柴犬、トイ・プードル、ヨークシャー・テリアなどで認められることがあります。
また、肥満は前十字靭帯断裂の大きなリスク因子のひとつです。体重が増えることで膝関節にかかる負担が大きくなり、靭帯へのダメージが蓄積しやすくなります。
大型犬では比較的若い年齢で発症することもあり、4歳以下で断裂がみられる場合があります。一方で、体重15kg以下の小型犬から中型犬では、7歳以降に靭帯が断裂する傾向があります。
前十字靭帯断裂は、加齢に伴う靭帯の変性、脛骨近位部の骨格的な特徴、肥満による過負荷、免疫介在性疾患など、さまざまな要因が関係して起こると考えられています。
また、片側の前十字靭帯が断裂した犬では、反対側の膝にも同様の問題が起こることがあり、両側性に発症するケースも少なくありません。
近年では、完全に断裂する前の部分断裂も、膝関節の跛行の原因として重要視されています。部分断裂では症状が分かりにくいこともありますが、放置すると完全断裂へ進行することがあります。
症状
前十字靭帯断裂の症状は、靭帯の損傷の程度、急性か慢性か、半月板損傷の有無、関節炎の進行度などによってさまざまです。
急性の前十字靭帯断裂では、突然強い跛行がみられ、後ろ足を地面につけずに挙げて歩くことがあります。
損傷後2〜4週間ほど経過すると、跛行が一時的に軽くなることもありますが、膝関節の不安定性は残っているため、症状が再発したり徐々に悪化したりすることがあります。
時間が経過すると、患肢をかばって生活するため、大腿部の筋肉が徐々に落ち、左右で足の太さに差が出てくることがあります。
前十字靭帯の部分断裂では、軽度の跛行を繰り返すことがあります。
最初は「少し足をかばる」「運動後だけ跛行する」といった軽い症状でも、徐々に悪化し、膝を伸ばしたときに痛みがみられることがあります。
慢性化した前十字靭帯断裂では、膝関節の内側が厚く触れることがあります。
また、前十字靭帯断裂によって膝関節に二次的な関節炎が進行すると、正常なお座りが難しくなり、横座りをしたり、患肢を投げ出して座ったりすることがあります。
診断
前十字靭帯断裂の診断では、まず歩き方や痛みの有無を確認し、膝関節の触診を行います。
代表的な検査として、脛骨前方引き出し試験や脛骨圧迫試験があります。これらの検査で、脛骨が大腿骨に対して前方へ不安定に動く所見が認められると、前十字靭帯断裂が疑われます。
ただし、部分断裂や慢性例では診断が難しい場合もあります。
特に、膝関節周囲の筋肉が緊張していたり、痛みで力が入っていたりする場合には、明確な不安定性が分かりにくいことがあります。そのため、整形外科診療に慣れた獣医師による評価が重要です。
また、中年齢から高齢の小型犬で後ろ足の跛行がみられる場合、膝蓋骨脱臼と診断されている犬の中に、前十字靭帯断裂を合併しているケースもあります。
膝蓋骨脱臼だけが原因と思われていても、実際には前十字靭帯の損傷が関係している場合があるため注意が必要です。
診断には、触診だけでなく、レントゲン検査も重要です。
レントゲン検査では、関節炎の程度、関節液の増加、骨の変化、膝蓋骨脱臼の有無などを確認します。
治療
犬の前十字靭帯断裂の治療法は、年齢、体格、体重、活動性、膝関節の状態、併発している整形外科疾患、全身状態などを総合的に判断して決定します。
小型犬では、外科手術を行わず、保存療法で症状が改善する場合があります。
保存療法では、短いリードでの散歩に制限する、運動量を調整する、体重管理を行う、消炎鎮痛薬を使用するなどの方法を組み合わせます。
ただし、保存療法で十分な改善がみられない場合や、半月板損傷、膝蓋骨内方脱臼などを併発している場合には、手術が必要となることがあります。
一方で、中型犬や大型犬の前十字靭帯断裂では、膝関節への負担が大きいため、一般的には外科手術が推奨されます。
ただし、過度の肥満がある場合には、手術の安全性や術後の回復を考慮し、減量を行ったうえで手術を検討することがあります。
代表的な手術方法には、以下のようなものがあります。
1)関節外法(ラテラルスーチャー法)
主に小型犬で選択されることがある手術方法です。大腿骨の外側にある外側腓腹筋頭種子骨周囲と、脛骨の前方にある脛骨結節付近を強い糸で結びます。
これにより、前十字靭帯の代わりに膝関節を支え、膝関節の不安定性を軽減することを目的として行います。
2)TPLO(Tibial Plateau Leveling Osteotomy:脛骨高平部水平化骨切り術)
一度骨を切り、脛骨の角度を変えることで、前十字靭帯が断裂していても膝関節が安定しやすくなるようにする手術です。
中型犬から大型犬では、良好な機能回復が期待できる手術方法として広く行われています。
関節外法は、骨を切る手術ではないため、TPLOと比較すると手術侵襲が少ないという特徴があります。
一方で、体重が重い犬や活動性が高い犬では、糸にかかる負担が大きくなり、糸の緩みや再不安定化が起こる可能性があります。
そのため、当院では体格、体重、活動性、膝関節の状態、半月板損傷の有無などを総合的に判断し、関節外法が適しているかどうかを慎重に検討しています。
手術後は、適切な安静管理とリハビリテーションを行うことで、患肢の機能回復がさらに期待できます。
特に、関節の可動域訓練や、水中歩行などのリハビリテーションは、筋力の維持や関節機能の改善に役立ちます。
前十字靭帯断裂の手術は、症例ごとの評価と術式選択が重要です。
そのため、経験のある獣医師が診断から手術、術後管理まで一貫して行うことが大切です。
経過とご家庭での注意点
治療後も、膝関節への負担を減らすための生活管理が大切です。
体重が増えると膝への負担が大きくなるため、肥満にならないように注意しましょう。
また、フローリングなどの滑りやすい床は膝に負担がかかりやすいため、マットやカーペットを敷くなど、滑りにくい環境を整えることをおすすめします。
前十字靭帯断裂は、片側だけでなく反対側の膝にも起こることがあります。
片側の前十字靭帯を断裂した犬では、その後1年半以内に反対側の靭帯断裂が起こる可能性があるため、術後も歩き方や体重管理に注意が必要です。
「急に後ろ足を挙げた」「歩き方がぎこちない」「お座りの姿勢が崩れる」などの症状がみられる場合は、早めにご相談ください。


